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貧乏くじの引き方-追編之漆-

 arcadia、ハーメルンの方から遅れての更新になりましたが追編七話です。
前話の直後、叢雲の改修案の話とか戦列の強化についてを軽く話したり、赤加賀雑談とか川内とかそんな感じです。



「叢雲、ちょっと良い?」

 大きく開いた窓から陽の光が差し込む。
西に太陽が傾き始めた頃、フローリングの廊下を歩く銀髪の少女を呼び止める声がする。振り返るとそこには、普段に比べるといささかだらしのないシルエットの軍服を着た司令官がファイルを片手に立っていた。

「ん、どうかしたの?」
「伊豆の件があったでしょ、それで艦隊の主力級メンバーの艤装改修案を今明石に投げてるのよ。一応現秘書艦からって事でアンタの分と、今回の武勲艦数人とを先に用意してもらってるからちょっと付き合って欲しくてね」
「曙はお役御免?」
「秘書艦だけ解任。後はあの子次第だしね。ああ、改装案自体は用意してるわよ」

 そう言って彼女は手に持っていたファイルを手渡す。それを受け取りパラパラと捲っていくと、各艦娘に合わせた艤装の強化案が二、三種程度ずつ纏められていた。
どうやら曙と別れてからずっと執務室に篭っていたらしく、帽子から覗く髪は乱れ、目元には隈が薄らと見える。少女は強く差す西日に目を細め、小さく欠伸を噛み殺していた。
 その様に内心苦笑いを浮かべながらも中身を改めてゆく内、自分の名前が書かれた用紙に目が留まる。航行速度強化案、装甲強化案と、他の艦娘同様の基本的な改修案に紛れて一つ。

「近接補助案?」
「ああ、普段持ってる武器あるでしょ。アレ使ってるとこ見た事なかったから使いづらいのかなーって思って」
「それで薙刀、ねえ」
「確かやってたわよね?」
「化物を斬る鍛錬はしてないわよ」

 それもそうか、と笑みを浮かべながら歩みを進める。途中、ふと思い出したように叢雲が声を上げた。

「そういえば金剛さんが新しい艤装になってたわね、アレも?」
「ええ。改二装備の制式採用が決まってたからそいつを寄越せ、って明石経由で突っついてね」

 そう言って司令官はけらけらと笑う。どうやらそれなりに横須賀の連中とやりあったらしく、その口調はまるで愉快なものでも見たかのように明るい。
暫く会話を続けながら歩いていると、曲がり角から一人の少女が飛び出してきた。

「うわ、提督!?」
「うわじゃないわよ、何やってんの川内」
「あ、叢雲も居たんだ」

 態とらしく視線を銀髪の少女の方へと向ける。やはり、未だに恐怖心を拭いきれていないのか、なるべく目を合わせないようにしているらしい。
小さく溜息を吐き、司令官は肩を竦める少女に話しかける。できるだけ、優しい声で。

「で、何走ってたの? 全力で逃げてきてたみたいだけど」
「え、ええと、そのですね……実は」
「見付けました」
「ひっ」

 更に川内の後ろから、腹の底に響くような低い声。見覚えのあるサイドテールが見えたと思った次の瞬間、川内が二人を盾にするように背後に回り込んできていた。
訳が分からず目を合わせる二人と、川内とを交互に見比べ、加賀は声の調子を全く変えずに続けた。

「提督、そこの夜戦馬鹿を此方に渡して下さい」
「事由次第よ。正当な書面、ないし説明はある?」
「……聞かなくても分かるけどね」

 不敵な笑みを浮かべて加賀を見遣る司令官に向かって、千切れんばかりに川内が首を横に振る。怒り心頭、といった様子の加賀と川内とを見比べ叢雲はおおよその状況を察した。
そして、司令官の表情を見て、呆れたように溜息を吐く。こいつも分かっていてやっているんだろうな、と言いたげに。

「……いいでしょう。そこの夜戦馬鹿は昼食中の食堂にもう一人の馬鹿と一緒に押し掛け、あろうことか赤城さんの食事を奪い取っていったのです。天龍の方は捕まえて折檻を済ませましたが、そちらの軽巡が想像以上に逃げ足が速いため難儀していた所です」
「殺してないわよね?」
「まさか。行儀について暫く説教をした程度です」

 加賀はそう呟いて息を吐いた。恐らく言葉通りだろうし、川内を引き渡した所で彼女も説教を食らわされるだけだと想像出来る。正座の上で、という条件付きだろうが自業自得と言えようものだ。
隣をふと見れば、自分より背の低い少女が「どうするつもり?」と言いたそうな視線を此方に向けていた。相変わらず背中にしがみつく川内は涙目である。
 少しの沈黙を経て、加賀は静かに背負っていた矢筒に手を掛けた。

「で、どうします? 大人しく川内を渡して頂くか、さもなくば……」
「……悪いけど、地獄と分かっている場所へ部下をやるほど落ちぶれてはいないわ」
「……そうですか、生身で艦娘と戦って勝てると考える程無能とは思っておりませんでしたが、仕方ありませんね、提督には此処で果てて頂きます」
「なんでそう二人して乗ってんのよ……」
「て、提督……?」

 静寂が廊下を支配する。数分にも思える沈黙、どちらともなく脚に力を込め床板を軋ませた直後、空を切る音が一つ響き渡る。
数瞬後そこにあったのは、額に突き立てられた矢を掴み仰け反る少女と、弦から手を離し、残心する加賀の姿だった。

「なっ……!」
「嘘……」
「……ちょっと加賀アンタ本気で射ったでしょ結構痛かったんだけど!」
「本気で引かなければ飛ぶ物も飛びません。勉強不足ね」

 握った右手を引っ張ると、ぽん、という間の抜けた音と共に矢が額から外れる。そこには朱い円状の跡が残っており、本来鏃がある筈の場所には、直径二センチ程の吸盤が据え付けられていた。
叢雲、川内の二人は何が起こったのかを今一つ把握しきれず、未だに戸惑っている様子が見える。

「まったく……川内にはこっちからちゃんと言っとくわ。どうせ龍田辺りがけしかけたんだろうし程々にね」
「赤城さん自身、さして気にしていませんでしたので私もこれ以上どう、とは」
「何やってんのよ……」
「何って、ねえ」
「ねえ」

 見ての通りじゃないか、とでも言いたそうな表情で加賀と司令官は顔を見合わせる。当然のことながら、その仕草に叢雲は頭を抱え大きく息を吐くことになった。

「そういう意味じゃなくてこんな阿呆みたいな事をやった理由を聞いてるの。ワザとやってんでしょアンタ等」
「加賀が結構乗ってくれるタイプだからつい、ね」
「まるで私のせいのように話しますね」
「そうは言ってないわよ……ってあれ、川内?」

 背中に掛かっていた手から力が抜けたのを感じる。続けて耳に入ってくるのは腰を抜かしたのか、床板をより強く鳴らす音。
気になって振り返ってみれば、そこには瞳を涙に潤ませて座り込む少女の姿があった。

「あ……あ」
「……川内?」
「提督、生きてるよね、死んでなんかないよね?」
「生きてるに決まってんでしょ。ていうかなんで死んだなんて……」

 言いかけて、叢雲はああ、と気付く。彼女は司令官の背後にしがみついた状態で、加賀が矢を放つ所を見たのだ。
真横に居た自分は握られた手の隙間から吸盤が覗くのを見ることが出来たが、川内の位置からそれに気付くのは不可能だろう。

「全く、大袈裟な追いかけ方をした事は認めますが、流石に心外ね。私が本気で提督を討つと思ったのですか」
「そ、それは……」

 視線を逸し言い淀む川内の姿を見て、加賀は小さく眉をひそめる。そして複雑そうな表情で視線を交わす叢雲、司令官の二人に視線を向け、少しの沈黙の後小さく切り出した。

「ひょっとして、提督が深海棲艦だから?」
「どうしてそれを……!?」
「あら、当てずっぽうだったのだけれど、本当なのね」
「……だったらどうする気」

 刺すような視線が司令官に向けられる。態とらしく敵意を向けてみれば叢雲が慌てて割り込む。川内の方を盗み見るが、そちらはまだ判断を付けられない、或いは踏み切れない、と言ったところだろう。
正面に立つ二人を交互に見比べ、加賀は小さく溜息をつく。どうもしない、と。そして、隠すならもっと上手くやってくれと、呆れたように続けたのだった。



「意外といえば意外です」
「赤城さん。……提督がですか、それとも」
「両方、ですね」

 空母寮。名前の通り空母、軽空母等の艤装適応を持つ艦娘等が暮らす施設であり、赤城や加賀なども此処で普段の生活を行っている。その中、二階の一室が一航戦二人の私室であった。

「そもそも提督が向こう側だった、というのも語弊はありそうですね。そちらもなのですが、加賀さんがそれを知って弓を引かなかったことも、私としては少しびっくりしています」
「結構失礼な事を言われている気もしますが……そうね。詳しく聞くことはしなかったけれど、それなりに前からの事だったみたいだし、仮に敵であったならば伊豆で我々は瓦解しているわ」
「確かにそれだけ大きな戦闘ではありましたが、少し安直に過ぎませんか?」

 赤城がぽつりと呟く言葉を聞き、不愉快そうに眉根を寄せる。対照的に彼女は何処か楽しそうだ、その声も何処か明るく弾んでいる。

「……というと?」

 明らかに不機嫌そうな声を発する加賀に対して、分かっているくせに、と湯のみに口付ける。遅れて聞こえた加賀の溜息に答えるように、赤城はその手を空にして話し始めた。

「今回の戦闘で出た重傷者は二人、どちらも艦隊内では高い練度を持っていますし、正直な所、生還できたのは半ば運に助けられたようなものです。そもそも、幾ら大きな作戦とはいえ、彼我の戦力差を考えれば一戦で瓦解するというのは不自然ですよね」
「……擬態して潜りこむほど頭が働くなら、疑いの目を向けられることも避けようとするはず、と」
「ええ。そして、今回の様に主力を担う艦娘を中心に戦線離脱させてゆけば、一気に全滅させても疑いが向かなくなるタイミングが来ます。二の矢、三の矢を考える場合私ならそうしますね」

 一通りの主張を終えたか、再び湯のみに手を掛け乾いた喉を潤す。赤城の主張そのものは確かに筋道が通っており、その発言だけを取れば、何故提督を討とうとしなかったのか、と問い掛けているようにも取れる。
しかし、彼女の表情はそう語ってはいなかった。

「自ら前線に立ち、喉を枯らしてまでその二人を助けさせようと指揮を執っていた。それでは駄目ですか?」
「いいんじゃないでしょうか。そもそも既に知っている艦娘が居るあたり、内通者と呼ぶにはお粗末ですからね」
「まったく、人が悪いです。私の口から感情論を引き出したかったのかしら」
「まあ、たまにはいいじゃないですか。私は、貧乏くじを引きたがるあの提督は嫌いではないですし」
「……叢雲達に敵役じみた印象を持たれる羽目になった私の気持ちも考えて貰いたいところだわ」

 朱に染まる水平線に視線を向け、二人は小さく湯のみを呷った。

-貧乏くじの引き方 追編之漆- 了
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