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Valentine Operation

バレンタインネタと言いつつホワイトデーの投稿になった件について。
今までの掌編に登場したキャラクターがほとんどですが、一人だけ新キャラが登場します。

というか3月23日現在誤字を修正しようとした結果本文が吹き飛ぶとかいう意味の分からない事態にぶち当たってちょっとアレ。



「ねえねえ、バレンタインのチョコどうする? 本命居るんでしょ?」

「アタシは友チョコくらいかなー、今のところ本命は考えてないや」

 2月12日。世間はバレンタインムードに賑わい、男女共に浮き足立っていた。そして。

「んで梓は本チョコあんの? 白銀の事気にしてたっしょ」

「ごほっ?!」

 片手に持っていた紙パックのジュースを盛大に噎せ、慌ててティッシュを取り出す。
 高校二年目に入ろうかという頃。金に近い茶髪、それをボブ気味に切り揃えた小柄な少女、『笠原梓(カサハラアズサ)』にとって、年度末最大の作戦が始まろうとしていた。


『Valentine-Operation』


「ほ、本命とか、そんな訳あらへんよ! てゆーか、別に私は白銀の事なんか気にしてへんし」

 両手をひらひらと振ってそう言葉にしたものの、少しどもってしまった辺り、隠し事は苦手なのだろう。
しばらくの間、悪戯っぽく笑う友人を必死に納得させようとしてはみたものの結果は芳しくもなく、適当に理由を付け一人教室を出るのであった。

「……あかん、なんでバレてんの……」

 クラスメイトの予想は当然ながら的中しており、彼女は同じクラスの少年、白銀御月に少なからず好意を抱いていた。



 切っ掛けは入学前、引っ越してきたばかりで道に迷っていた所を助けられたのであるが、それだけであれば親切な人もいるという話で、帰ったら話の種にでもしよう、位の考えであったのだ。
 しかし弱り目に祟り目、悪い事は重なるもので、運悪く財布を落としていたという笑えない話が付いてきた。当の財布自体はその後すぐに見つかったのだが、目印となる駅まで送って貰った挙げ句帰りのバス代まで立て替えられてしまったとあっては、彼女としても収まりがつかない。

 とはいえ、御月は名前を名乗るだけに留めたために返しに行くこともできず時が過ぎ、やがて高校最初の授業その日。

「えっ、ああーっ!」

「ん?」

「……白銀、御月君やよね……?」

「そうだけど……ってああ、春休みの。財布は大丈夫だったのか?」

 同じ高校、同じクラスだったと知る事になった。

「うん、あの後警察から電話あって、拾った人が届けてくれててん。あ、そうそう丁度良かった、家教えてくれへんかったからずっと引っ掛かってたんよ? ほらこれ」

 そう言って財布から五百円玉を取り出し、御月の手を取って渡す。

「?」

「バス代。借り作りっぱなしって私あんまり好きやないから」

「……そうか」

 掌の硬貨に視線を向け少し間を置く。連絡も何もなかったのに、今更返されても困る、等と言われたらどうしよう。そう不安が首をもたげようとした辺りか。

「有難う笠原、助かったよ。弁当持ってきてないし、昼飯どうしようかと思ってたんだ」

 そう言って御月はばつが悪そうに笑った。



(いやこの一回で惚れたわけやないけど。……でも)

 意識し始めるには十分だったのかもしれない。

「んあー、でもなぁ……私体育以外あかんしアホの子やし……」

「……自称アホの子は妙なキャラ付けされるからやめた方が良いんじゃないか?」

「うわぁ白銀何しに来てん!?」

 教室前の廊下で昼休みなんだから通るだろうと言われ二の句が継げない。自身の気持ちを悟られぬよう急いで呼吸を整えた辺りで、普段一緒に居ることが多い秋人の姿を認められないことに気付いた。

「あれ、そういえば香椎は?」

「多分売店じゃないか。授業終わってすぐ出ていったしな」

「欲しいの買えたらええよねー。実際売店ってなんであんな混むんやろうね」

「コンビニに寄ってたら間に合わないとか」

「んな遅刻ギリギリな人ばっかやないと思うよ、多分」

 笠原は昼は? 弁当、さーちゃん等と食べてるんよ、等ととりとめのない会話を交わす。その最中、ふと周囲を見渡し御月がぽつりと呟く。

「妙に落ち着きがないと思ったが、そういえばもうすぐバレンタインなんだな」

「!?」

 その言葉にびくり、と梓が肩を揺らした事には気づかなかったのか、御月は何事もなかった風にこちらに向き直った。

「そ、そうやね。あそこら辺の男子とかめっちゃ髪型気にしてるやん、現実はそんなに優しないで……」

「香椎が毎年あんな感じだから笑えないな……」

「意外、結構もててるイメージあったわ。実際顔はいいやん?」

 それはそうなんだが、と御月は言葉を濁す。一瞬不思議に思い眉をひそめたが、自分で『顔は』と言ったことを思い出し、そして気づく。


 『香椎秋人は悪人でこそ無いが見た目の割にヘタレである』、彼と話したことのある女子の共通認識である。
顔も良ければ人柄も悪くないのだろうが、付き合いの長いらしい一部女子以外と話すのが非常に苦手らしく、とにかく会話が続かない。
 それもあって付き合いに根気を要するという状況が、秋人がバレンタインに泣く流れを毎年のように作り上げていた。


「なんていうか二人で、ってなると緊張してダメなんだと」

「そのギャップがええって人もおりそうやけどねぇ」

「話せないレベルじゃ流石にキツくないか? 最近はそれなりに話せるようになったらしいから、今年はもしかしたら貰えるかもなアイツ」

「……イヤでも廊下の窓で髪型整えてるのは女子的にアウトやと思うわ私」

 なんで洗面所でせーへんねん、と小声で突っ込む。パン持って入りたくなかったんだろ、とフォロー。そもそも昼食前にワックスの着いた髪に触れるというのはどうかと思う、とは梓も言わなかった。
 秋人の方もこちらに気付いたのか、微妙な表情を浮かべつつ歩いてくる。

「そういえば笠原も昼飯の途中だったな、立ち話に付き合わせて悪かった」

「気にせんでええよ。ほとんど食べ終わってたし」

 軽く手を振り、少し歩いたところでふと振り返る。

「な、なあ、白銀」

「なんだ?」

「自分はえらい涼しい顔してるけどさ、その、チョコとか欲しかったりせえへんの?」

 なるべく雑談の延長に聞こえるようにと、平静を装い問いかける。御月は一瞬驚いたような顔をしたかと思うと、何かを考え込むような仕草を見せた。どうやらバレンタインを気にしているのは彼も同じらしい。

「そ、そりゃあまあ貰えたら嬉しいのは確かなんだが……なあ」

「人気あるもんなあ、ホワイトデーとか大変とちゃうん?」

「ま、まあ、な……」

 妙に歯切れの悪い御月といくらかの会話を交わし別れた。

 白銀御月はその風貌から中学時代より異性に人気があり、その甲斐あってチョコなどを貰う機会は少なくなかった。しかし、そもそも彼にはずっと御名坂優希という幼馴染み、もとい想い人が居り、更には中学校の卒業式の際、彼女と晴れて恋人となっている。

 そんな彼からすれば、優希以外からの本命チョコというのは些か反応に困るものでもあり、それまでとまた違った悩みにより、頭を抱えることとなった。


「うーん、予想以上の難敵やわ……」

 そしてそんな事を知る由もない梓は、顎に手を当て、うんうんと唸り声を上げるのであった。



「って訳なんよ、どう思う?」

「うわ、その話聞く限り白銀やっぱモテモテじゃん。めっちゃハードル高くない?」

 つーかやっぱ白銀狙いなのな、などという発言は聞かなかったことにして、改めて助けを乞う休憩時間。
 梓なりにあれやこれやと嗅ぎ回ってはみたものの、特別目新しい事実が見つかるでもなく、帰宅部であり、同じクラスの女子では御名坂優希、神鷺夏希、奈々月楓の三人(正確には香椎秋人を含めた四人)とよく話しているところを見かける、と言った誰でも知りうることしか分からなかった。

 そして、梓は御月と優希の二人が幼馴染みということをあわせて知る。

「でもやっぱ有力なのは幼馴染みの優希かねー、あの子も地味に男子に人気あるしさ」

「マジで? 幼馴染みとか流石にハードル高すぎひん……」

「大丈夫顔は負けてないって!」

「相手が悪すぎるわぁ! 顔も良くて人当たりも悪無い、運動神経抜群で、おまけに何あの体! てゆーか乳!」

「確かにそこそこあるよねえ、スタイルも良いし」

「あれパッド入れてないからね、超柔い」

 揉んだんかい、と思わずつっこむ。とはいえ、同姓の目から見ても、優希が男子に人気のある理由は分からないでもなく、それ故彼女と張り合わなければならない可能性を考えると気が重かった。

「もうなんか既に嫌な予感しかせえへんよ私」

「当たって砕けろとしか。私らは白銀狙いじゃないしねえ」

「競争率高いんは苦手なんやけどなあ……」

 窓の外に視線を移し、小さくため息を吐くのであった。



「……あかん、全然手が浮かばへん」

 高らかにチャイムが響く。明後日に控えたバレンタインを意識するあまり、授業も頭に入らず、悶々とした感情を抱えたままその日の授業が終わった。

「梓、帰りどうする? 今日部活休みっしょ」

「ん、今日は一人で帰るわ。ちょっと考え事したいし、ごめんなー」

「そ。相手が相手なだけに保証はできないけど頑張んなよ」

 言われんでもそうするわー、と気の無い返事。些か気が滅入っているところもあったが、そうは言っても時間は少ない。敵情視察にかまけて渡すチョコがありません、では話にならないのだ。

(あんまり料理得意やないけど、調べもってやれば何とかなるやんな……)

 携帯を片手に材料を揃え、足早に自宅への帰路についた。

 帰宅後直ぐに着替え、ネットの海へ。そして、チョコレートメーカーのバレンタイン特集、その中の『手作りチョコの作り方』と題字が打たれたウェブページを開き、自身のノートパソコンをキッチンへと持ち込む。テーブルの上には帰りに買い込んできたチョコレートと、料理慣れした弟を捕まえ用意させた道具一式。


 そこからの調理工程は、御世辞にも見事とは言いがたいものであった。まずチョコを刻む段階で手間取り、大きさは不揃い、必要分を全て刻み終えた時には、幾らかの切れ端が溶けてしまい。湯煎をすればボウルに湯が混ざり、温度の維持も上手く行かず。それでも尚やり直し続けたのは、恋する乙女の底力故だろうか。

「……ま、まあこれだけ出来たら上出来やんな……」

 日が傾き、すっかり朱に染まった部屋の中。一応は『美味しい』と思える所まで拵えたチョコレートを冷蔵庫に収め、梓は小さく拳を握った。尚、流石に包丁で指を切る程不器用ではなかった。



「……う、ん?」

 翌々日。緊張で眠れなかった結果、目覚まし時計にも気付かなかった少女が目を覚ましたのは、全力で走って遅刻するかしないか、そんな時間だった。慌てて着替え、冷蔵庫に入れていたチョコレートを鞄に仕舞い家を飛び出す。
 時折足を休めつつ、十数分ほど走っただろうか。視界の先に、見覚えのある後ろ姿を認める。

「あ、おはよ白銀!」

「お早う。どうしたんだ、そんなに息切らせて」

「ち、ちょっと寝坊してんよ」

 他愛のない会話を交わしながら歩く。周囲に優希の姿がないことを確認し問いかけたところ、あいつも寝坊じゃないか、と返される。よかった、と安堵した事に気づいた直後、罪悪感が顔を覗かせた。

「なあっ」

 しまった、と思う。わざわざライバルが居ない事を確認した直後だと言うのに。しかし止まれない。渡せないよりは格段にいい。


 不思議そうな顔をしてこちらに振り向く。視界が白けて、周囲の音も聞こえない。だけど。


「これ、良かったら受け取ってくれへんかな?」


 想いを認めた手紙と、手作りのチョコレート。そして、自分の発した台詞だけは間違いなく聞こえた。



 その後の事は、あまり覚えていない。授業にも身が入らず、教師に当てられても上の空。結局、家に帰りつくまで、ぼやけた気持ちが晴れることはなかった。

「……はぁ」

 湯気が上ってゆく天井を見つめ、溜め息。

「手紙、ちゃんと読んでくれたんかな……」

 それまでは、恋文なんてと考えていた身だが、いざ書く段になってみると、口頭で伝えることの難しさを痛感してしまう。きっと、『スキ』の二文字すら満足に言葉に出来なかっただろう。
 体を預ける湯船の中、梓はようやく、意識がはっきりとし始めた事を実感する。
そして、何度目かの溜め息の際にふと、思い出した。チョコレートを受け取った時、礼を口にした御月はあの時と同じ、困ったような笑みを浮かべた事を。

「……やっぱアホやね、私」

 ありがた迷惑、つまりはそういうことだったのだろう。そして、御月が好意からくるその手の行動を断ることを非常に苦手としていたことには、既に気づいていた筈だった。それでも好いてしまったのは彼女自身だし、今更好意を否定する事など出来る筈もない。

 ぱた、ぱた、とタイルを叩く水音が静かな浴室に響く。やっぱり、失恋って辛いなぁ、と、掠れた声が湯気に消えた。



「……」

 すっかり冷えてしまった髪をドライヤーで乾かし、どさりとベッドに倒れ込む。先程まで一人で舞い上がってしまっていた事実はなるべく早く忘れてしまいたいが、十中八九予想通りではあるだろう。とはいえ、憶測に過ぎないままの状態を引き摺りたくない梓の右手は、小さく震えていた。

「今電話して大丈夫なんかな……」

 険しい表情を浮かべた少女の瞳は、ずっと御月の携帯電話の番号を見つめていた。幾度かの瞬巡の後、よしと小さく気合いを入れ、親指に力を込める。何度目かの発信音が途切れ、恐る恐る、といった調子の声が聞こえてきた。

『……もしもし』

「えー、と、白銀、やんな?」

『ん、ああ』

 唐突に素に戻った声を聞き、つい吹き出してしまう。

『な、何が可笑しいんだよ笠原』

「だって白銀がいきなり声の調子変えたからやん!」

『それは、その……』

 電話の向こうで、口ごもるのがはっきりと伝わる。今まさにその話をしようと思い行動を起こしたのだから。

「……なあ、一つ聞いてええかな?」

『ああ』

「チョコ、どうやった?」

『……結構美味かった。でも湯煎の時失敗しただろ、アレ』

「あー、やっぱバレた?」

『まあ人並みには料理できるしな。……あのさ』

 ごくり、と唾を飲み込む。きっと、聞きたくない話なんだろう、そう思うと直ぐに電話を切ってしまいたかった。しかし。

「ちょっとだけ、心の準備させて?」

『……』

「うん、おっけー。続きいって」

『手紙、読んだよ』


 やめて。


『……その、気持ちは、嬉しい。チョコだって、気合い入れて作ってくれたみたいだしな』


 もういい。続きは言わなくてもわかってるから。言わないで。


『……でも、ごめん』


 恋が一つ、乾いた音を立てて呆気なく終わった。


「予想通り、やったなぁ」

『……その』

「白銀が気ぃ使うことないよ、私が勝手にフラれただけやん?」

『本当にごめん』

「ええって。代わりにちょっと聞きたいんやけど、いい?」

『あ、ああ』

「……もしかして優希ちゃんと付き合ってたりせーへん?」

『……えっと、知ってたのか』

 御月の言葉に小さく笑う。まさか当たっているとは思わなかったと。そして暫くの沈黙の後、再び切り出す。

「隠してたん」

『付き合い始めてからもう一年ほどになるし、わざわざ触れ回るような事じゃないと思ってな……』

「まあ確かに……でも、」

 少し考える。敵に塩を送るようなものだが、それでもいいのか、と。しかし答えは変わらなかった。

「少なくとも人気あるんやから、トラブル避けるための予防はしといた方がええよ? 特に優希ちゃん女の子なんやし」

『……気を付けるよ、ありがとう』

「どのみち結果聞かれた時に言うから一緒やと思うけどね」

 その後、いくつかの会話を交わし通話を終える。小さく溜め息を吐き瞼を閉じたが、意識が途切れるまでは暫しの時間が必要で。その頃には湿気を含んだ枕を不快に感じていた。



「で、どーだったの?」

「何が」

「……フラれたんだ」

 ムスッとした様子で頬を膨らませる梓を見て、友人は笑う。引き摺っていないようで良かった、と。

「余計なお世話やねん。あと白銀に聞いてんけど、中学卒業した辺りから優希ちゃんと付き合ってるらしいんよ」

「え、マジ?」

「マジ」

 黙々と箸を動かす。予想通りとはいえビックリだわー、なんて声が聞こえてくるが、あまり盛り上がる気分にもなれなかった。

「まあ気落とさないでさ、梓なら他のイケメン狙いでもいけるって」

「フラれた次の日に新しい恋始めるほど尻軽やないって」

「とはいえ白銀と優希がねえ……案外行くトコまで行ってたりすんじゃないの」

 ごつん、という音を立てて机に突っ伏す。少々強がって普段通りに振る舞おうとしてはみたのだが、結果は今一つ。どのみち新しい恋に気持ちを切り換えるには、しばらく時間が必要になりそうだ。


「あ、死んだ」

「生きてるわアホ……」

-fin-
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