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完全な従者と不完全な鴉、第三章。

という訳で続きを更新。とりあえず紅魔館の主、おぜうとのご対面です。



「…確かエヴァンジェと言ったかな、貴様もあのジャックとやらと同じ『便利屋』なのか?」

 強い威圧感。どうやら、ジャックは此処でなにかしらの騒ぎを起こしたらしく、彼の知り合いという事を伝えた途端、レミリアと名乗る館の主の機嫌が明らかに悪くなった。

「あ、ああ。そのようなものだ。」

「そうか。それで、目的は?」

「特には決まっていないが。それに何より、私はこの場所の事を知らない。元居た世界では既に死んだ身だろうしな。」

「…ふむ。」

 眼前の少女は考え込むような仕草を見せる。こうしている所を見ると普通の少女に見えるが、背中の羽と、鮮血のように紅い瞳を見て尚、ただの少女と見る蛮勇は流石に持ち合わせてはいなかった。

「お嬢様?」

「そちら次第ではあるが、暫くこの館に身を置いてみるか?」

「…驚いたな。美鈴とやらに吸血鬼だと聞いたが、襲わないのか。」

「直ぐに死にたいならそうしてやっても構わないが。」

「遠慮させていただこう。」そう言って肩を竦める。一度死んだであろう身とはいえ、何の因果か身体と意識を保って此処に居るのだ。流石に二度死ぬ趣味はない。

「そうか。まあ、そもそもこんな面白そうな人間をアッサリと殺してしまうのも勿体無いだろう?」

「…それを本人の前で言うか。」

「はは、悪かったな。ただ、メリットを見込めるが故に置いてやろうという部分もある、とだけ言っておこうか。」

「…メリット?」

「美鈴との話は聞かせて頂いてますが、貴方は『人形擬きの化物』を御存知だそうですね。」

「…なるほど。」アドバイザーないし、状況が許せばオラクルを駆って手伝えということか。
 移動中に横の、『十六夜 咲夜』と名乗ったメイドに話を聞いた限りでは、パルヴァライザーは確実に幻想郷に入り込んでいると見て良いだろう。

「さしずめ私はポーン、という事かな?」

「それは貴様がプロモーション(昇格)出来るか次第だな。…何より、アレは簡単に直したり出来るわけではないのだろう? であればナイトか、はたまたルークがいいところだ。」

「…」

「気を悪くするなよ。元々こういう質なのでな。」

 レミリアの言葉を不快に感じた訳ではなかったが、パルヴァライザーと相見える事を考えると、とりあえずの拠点を得られたことも素直には喜べなかった。

「さて、挨拶はこの辺りでよろしいかな? 咲夜、客室へ案内してやれ。」

「かしこまりました、お嬢様。さ、こちらへ。」

「あ、ああ。」





扉を出て、長い廊下を先導する咲夜と、それを追うように歩くエヴァンジェ。

「しかし、厄介な時に来たものですね、貴方も。」

「同感だ。…まさか、アレが居たとはな…。」

「パルヴァライザー、と言いましたか。」

「うむ。…お前達以外にアレとやりあった者は居ないのか?」

「一度、永遠亭…と言っても解りませんね。別の場所ではありますが、四つ足のものが出たそうですよ。それがどうかしました?」

「なに、嫌な予感が当たっただけだ、大仕事になるやもしれんな。…偽物に何をしろというのか。」

 眉をひそめる咲夜。エヴァンジェはそれを気に留めることなく、窓の外に鎮座する愛機を眺めていた。





「…それで、私は何をすればいい?」

「特には。前回の事があります故、あくまで『客人』として扱わせて頂きます。」

 『前回』と言う単語を強めた辺り、奴の起こしたトラブルはよほどなのだろうな、と感じたが、口には出さないまま頷く。彼に宛がわれたのは、客室の一つ。元より荷物はそう多くないが、念には念を、と機体から装備や非常食の類を持ち込んでいる。

「…勝手な行動は慎め、と言う事だな。」

「ご理解が早くて助かります。そうですね、妖精メイドを一人付けておきますので、用があればそちらへどうぞ。」

「そうか、助かる。」

 それでは、と残し部屋を後にする咲夜。それを見送り、持ち込んだザックの内容物を改める。これを持ち歩いていたのは記憶の上ではほんの数日前でしかないが、そもそも戦闘直前に食料を新調した訳ではない。
通常時であればそれでも全く問題はないのだが、今回ばかりは事情が違っていた。
 実時間ではどの程度の経過なのかを、一度確かめる必要があったのだ。体感時間通りの経過であればまだ長い間持っていられるだろうが、『幻想郷に迷い込むにあたって』数年または数十年の劣化を経ていたとすれば。

「機体や私の身体と同様に問題はない、とは言い切れんからな…。」

 ザックの中より『Field Ration』の文字が書かれた袋を取り出し、その中から保存期限が最も新しい物と、最も古い物をそれぞれ手に取る。手の内で弄ぶのは、戦闘糧食の一つであるやや大きめのチョコレートバー。
食べやすい大きさなのもそうだが、先程までの緊張状態のお陰もあり、何より糖分を身体が欲していた。

「…ん?」

 少し逡巡し、『保存期限が最も古い方』の包装を開けた直後、扉がノックされる。開かれた扉の先にいたのは、小柄な少女。背中に羽根のような物がある所を見ると、彼女が咲夜の言う『妖精メイド』なのだろう。

「し、失礼致します、エヴァンジェ様。」

「…お前は?」

「咲夜様より、貴方様の世話を任された者です。」

 そう名乗ったのは、先に見た館の主、レミリアよりも更に小柄に見える少女。『妖精メイド』というだけあり、小柄と言うよりもそもそものサイズが小さいと言った方が妥当かも知れない。

「そうか。」

「…えーと、何か御用は…」

「ん? …ああ、そういえばまだ屋敷内の案内もまだだったな。頼めるか?」

「はい。それでは早速…。」

 言葉を止め、珍しい物でも見るような視線をずっと向けてくる妖精メイドを見、訝しげに眉を顰めるがすぐに手元に視線を戻す。自身の右手には毒味をしようと開封したチョコレートバーが握られていた。
彼女はどうやらそれに目を奪われていたらしい。

「…これか?」

「それは…?」

「まあ、非常食のような物だ。…食べてみるか?」そう言って、包みの一つを放り投げる。慌てて受け取るが、想像以上の重さに驚いたらしく危うく取り落としそうになった。

「あ、とと…。チョコレート、ですか?」

「ああ。味は保証しないがな。」

「…」怪訝そうな表情のまま手元の包みを眺める。やがて、覚悟を決めたか、怖ず怖ずと手元の物体を食べ始めた。一応、保存期限の新しい方を渡しているので、さして問題はないだろう。そう考え、自身も開けたままのそれを口に運ぶ。
 美味くはないが不味くもない。ただ『食える』位の味ではあるが、ひどく久方ぶりの食事に感じた。

「どうだ?」

「うーん…美味しくは…普通、ですね…。」

「…だろうな。」そう言って手早く食事を済ませ、ザックを仕舞い直し立ち上がる。遅れて浮き上がる少女を目にし、ぶんぶんと首を振った。
 妖精、言葉通りの人外という事か。お陰で先に抱いたレミリアの羽が偽物ではないのか、という疑問もあっさりと吹き飛んでしまった。遅れて、美鈴が『人間』という単語に反応した理由にも得心が行く。人の姿をしていても人でない者が居るということか。

「…人間と、そうでない者と。」

「はい?」

「どちらが多いんだ? 此処は。」少なくともこの館はそうでない者の方が多いですね、と答えた妖精メイドの方を見でもなく、ただ頭を抱えるだけであった。





―続く―
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